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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)5669号 判決 1989年7月27日

原告

荒木一夫

被告

有限会社丸美組

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五六六万二六三一円及びこれに対する昭和六三年五月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金八六七万六九四四円及びこれに対する昭和六三年五月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、普通乗用自動車(ロータス・エスプリ・ターボ、練馬三三と九六八一号、以下「原告車」という。)を所有している。

2  被告朝倉茂夫(以下「被告朝倉」という。)は、昭和六三年四月二日午後五時二五分ころ、普通貨物自動車(以下「被告車」という。)を運転し、宮城県白石市福岡深谷字向田一九番付近の東北縦貫自動車道を村田インターチェンジ方面から白石インターチェンジ方面に向けて約八〇キロメートル毎時の速度で進行中、進路を右側車線に変更するに当たり、右後方の安全を確認し、右側車線を走行している車両の走行を妨げる虞れのあるときは進路変更を差し控えるべき注意義務があり、また進路変更する際にはその三秒前から進路変更の合図をして進路変更すべき注意義務があるのにこれらをいずれも怠り、進路変更の合図をしたものの三秒経過する前に直ちに漫然右側車線に進路を変更した過失により、右側車線を後方から進行してきた原告車左側面に被告車右後部側面を接触させ、更にそのはずみで原告車を右側ガードレールに接触させ、原告者を破損した。(以下「本件事故」という。)

3  被告有限会社丸美組は、建設業を営むものであり、被告朝倉は被告有限会社丸美組の使用する現場作業員であるが、本件事故は、右事業の執行につき発生した。

4  原告車破損に伴う損害の額は次のとおりである。

(一) 修理代 金六四三万八九八九円

(二) 被告らとの交渉のための主張費 金四万三五四二円

(三) 代車料 金二四万円

(四) 評価損 金一一六万二〇〇〇円

(五) 交通事故証明書料・査定費 金一万四六〇〇円

(六) 弁護士費用 金七七万七八一三円

よつて、原告は、被告らに対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、各自前記損害合計金八六七万六九四四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年五月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実について、原告主張の日時、場所において、原告車の左側面に被告車の右後部側面が接触する事故が発生したことは認め、その余は否認する。本件事故直前の原告車の速度は約二〇〇キロメートル毎時であり、被告車の速度は約一〇〇キロメートル毎時であつた。本件事故は、原告が高速で原告者を走行させ、かつ、前方に対する注意を怠つたため発生したものである。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

原告主張の日時、場所において、原告車の左側面に被告車の右後部側面が接触する事故が発生したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない乙第四ないし第一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、被告朝倉は、昭和六三年四月二日午後五時二五分ころ、被告車を運転して、宮城県白石市福岡深谷字向田一九番地付近の東北縦貫自動車道の走行車線を村田インターチェンジ方面から白石インターチェンジ方面に向けて約一〇〇キロメートル毎時の速度で進行中、前車の貨物自動車が約七〇ないし八〇キロメートル毎時の速度で進行していたため、一旦これに追従して約八〇ないし九〇キロメートル毎時の速度で進行したが、同車を右側から追い越そうとするに当たり、進路変更の合図はしたが、右側後写鏡を一瞥しただけで、原告車が自車右後方を進行中であるのに気付かず、前記速度のまま追い越し車線に進路変更したところ、被告車右後部側面を同車線を後方から施行してきた原告車左側面に接触させたこと、原告は、原告車を運転して前同日時ころ前記場所の東北縦貫自動車道の追い越し車線を被告車と同方向に向けて約一一〇キロメートル毎時の速度で進行中、被告車が進路変更の合図をして自車進路前方に進路変更してくるのを発見し、警音器を鳴らすとともに急制動したが間に合わず、前記のとおり、原告車と被告車が接触したこと、本件事故の結果原告車が破損したこと、以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、運転者は、自動車の進路を走行車線から追い越し車線に変更するに際しては、右後方の安全を確認し追い越し車線を走行している車両の進行を妨げることがないようにすべき注意義務があるものというべきであるが、被告朝倉は右注意義務を怠り、右後方の安全を充分に確認しないまま走行車線から追い越し車線に進路を変更した過失により本件事故を惹起したものということができる。

三  請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

四  請求原因4(損害)について

1  修理代 金六四三万八九八九円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、甲第九ないし第一一号証及び同尋問結果によれば、原告は本件事故によつて破損した原告者を中村自動車板金工業で修理し、修理代として金六四三万八九八九円を支払い、同額の損害を被つたことが認められる。

2  被告らとの交渉のための出張費 認められない。

被告らとの交渉のための出張費については、その個別の費用ごとに示談交渉に必要不可欠であつたことを認めるに足りる証拠がないから、同費用を損害として認めることはできない。

3  代車料 認められない。

代車料については、これを認めるに足りる証拠がない。

4  評価損 認められない。

自動車が事故によつて破損し、修理しても技術上の限界等から回復できない顕在的又は潜在的な欠陥が残存した場合(例えば、機能的障害が残存した場合、耐用年数が低下した場合など)には、被害者は、修理費のほか右技術上の減価等による損害賠償を求めうるものというべきであるが、これを本件についてみるに、本件事故により修理後原告車に前記技術上の欠陥が残存したことを認めるに足りる証拠はないから、原告車について事故による減価を損害として認めることはできない。したがつて、原告の評価損の請求は認めることができない。なお、甲第四号証(財団法人日本自動車査定協会東京都支所作成の中古自動車事故減価額証明)は中古車の商品価値の差(価格差)を算定したものであるところ、原告は中古車を販売するものではなく、また本件は買い替えを相当とする場合には当たらないから、右査定の上の減価を直ちに原告の損害とすることはできない。

5  交通事故証明書料 金一八〇〇円

成立に争いのない甲第六号証によれば、原告は交通事故証明書料として金一八〇〇円を支出したことが認められる。なお、原告の評価損の請求は認めることができないから、財団法人日本自動車査定協会に対する査定費を損害と認めることはできない。

6  過失相殺

普通自動車が高速自動車国道である東北縦貫自動車道の本線車道を通行する場合の最高速度は一〇〇キロメートル毎時に定められているが(道路交通法施行令二七条の二・一項一号)、前記認定の事実によれば、原告は本件事故当時、原告車を最高速度を上回る約一一〇キロメートル毎時の高速度で走行させており、右高速度による走行が急制動による事故回避を困難にさせ、本件事故の一因となつたことは明らかである。したがつて、原告の右過失を斟酌し、原告の前記損害額から二割を減額するのを相当と認める。

7  弁護士費用 金五一万円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金五一万円をもつて相当と認める。

五  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告らに対し、各自前記損害合計金五六六万二六三一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六三年五月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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